その理由は、
- 開発当初の最長記録時間は74分42秒で 、ベートーベンの第九が入る時間で決めた
- 人間の可聴帯域とされる高域上限の20KHzを記録する為に40KHz以上だからちょうどいい
など言われてますが、実際どうだったのかなぁと思ってたんですよね。
そんな中、以下本に出合いました。
デジタルオーディオは、自分がこれまで生活してきた中でも良く知らない歴史になるので、この本を中心に自分メモも兼ね整理してみました。

ディジタル・オーディオの謎を解く―CD・DATの科学と開発 (ブルーバックス)
- 作者: 天外伺朗
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1987/03
- メディア: 新書
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読んでみて知ることができましたが、音のデジタル化の歴史はほぼほぼソニーの歴史でもある感じ。 改めて昔のソニーはすげぇなと思った次第。
- 1967年ごろ: 世界で最初のディジタルテープレコーダー試作機が開発された
- 1977年9月: ソニーがPCMプロセッサの"PCM-1"を製品化
- 1977年10月: オーディオフェアで、ソニーなど3社がデジタルオーディオディスクの試作機を発表
- 1977年11月: アメリカのスリーエムが、業務用のディジタル・マルチ・チャンネル・テープレコーダーの試作機を発表
- 1978年: オランダのフィリップスが、直径11.5cmの小型光ディスクを開発
- 1978年2月: AES主催のディジタル・オーディオ技術の標準化のための第1回国際会議が開催
- 1978年3月: PCM-1600発売
- 1978年11月: 第2回AES国際会議が開催
- 1979年9月: ソニーがフィリップスとCDの共同開発をスタート
- 1980年: ソニーが業務用PCMプロセッサ「PCM-1610」発売
- 1980年5月、6月: ソニーがCDとDASHを相次いで発表
- 1981年10月: 世界規格が44.1kHzと48kHzに
- まとめ
- 参考文献・参考サイト
1967年ごろ: 世界で最初のディジタルテープレコーダー試作機が開発された
日本のNHKとイギリスのBBC(英国放送協会) が、ほぼ同時を開発。 サンプリング(標本化)周波数は、当時のテレビジョン、ラジオの音声の上限が15kHzに制限されていた中、NHKが30kHz、BBCは32kHzを採用していた。
NHKはその後の世界標準に影響は与えなかったが、BBCはヨーロッパの放送業界に影響力が強く、32kHzはヨーロッパ全体に支持された。 BBCはディジタル・テープレコーダーの実用化は行わなかったが、ディジタル化されたハイファイ音声信号を電話線を使って伝送する方式を実現していた。
1977年9月: ソニーがPCMプロセッサの"PCM-1"を製品化
PCMプロセッサとは、当時台頭してきた家庭用VTRを利用しビデオ信号として記録することで、数MHz帯域の記録を可能としたディジタル・テープレコーダー。
Sonyによって世界最初に商品化された"PCM-1"は、サンプリング周波数44.056kHz、量子化13ビット3折線、2chというもの。
13ビットだが3析線量子化という技術(圧縮処理のようなもの)を用いて、14ビットによる信号処理と同等の性能を持ち、85dB以上のダイナミックレンジを確保できていた。
ビデオ信号はNTSC規格に準拠し、水平周波数がモノクロ放送用(15.75kHz)とカラー放送用(15.734kHz)の2つあり。 15.75kHzの場合は、回転ヘッドの記録不能時間が1/15、走査線1本に3つ分のステレオ16ビット量子化データを記録できたので、1秒間に記録可能なデータは15750×14/15×3=44100個となり、44.1KHzというサンプリング周波数となりました。 15.734kHzの場合は、15734×14/15×3=440559で44.056kHz。
1979年ごろまでは44.056kHz。1980年のPCM-1610発売以降は44.1kHzに移っていきました。
1977年10月: オーディオフェアで、ソニーなど3社がデジタルオーディオディスクの試作機を発表
いずれも直径30cmの光学式ビデオディスクのメカニズムを流用し,PCMプロセッサと組み合わせたものだった。
1977年11月: アメリカのスリーエムが、業務用のディジタル・マルチ・チャンネル・テープレコーダーの試作機を発表
BBCの技術がスリーエムにながれ、業務用のディジタル・マルチ・チャンネル・テープレコーダー(マルチ・トラック・レコーダー)の試作機が発表された。
32ものチャンネル(トラック)が独立し個別に録音再生可能な機能を備え、サンプリング周波数は50kHzが採用されていた。
スリーエムにとっては、BBCの32kHzは音楽制作用には低すぎるという考えだったようです。
1978年: オランダのフィリップスが、直径11.5cmの小型光ディスクを開発
CDの基にもなった、直径11.5cmの小型光ディスクに60分の音楽信号を記録する試作機ALP(オーディオ・ロング・プレイと呼ばれていた)を開発。
直径11.5cmの理由は、ドイツ工業品標準規格のDIN規格(オーディオカセット用)に合わせていたから。
1978年2月: AES主催のディジタル・オーディオ技術の標準化のための第1回国際会議が開催
AES(Audio Engineering Society=アメリカ主体のオーディオ学会)が主催するディジタル・オーディオ技術の標準化のための国際会議が開催された。 業務用機器へのサンプリング周波数の世界標準化が期待され、この時点での世界標準は、試作機を開発していたスリーエムが優勢となり50kHzで決定された。
そんな状況の中、土井さんの基本戦略となったのは、音楽制作におけるすべてのディジタル化。
アナログのテープレコーダーには、ダビングのたびに音質が大幅に劣化するという課題があり、音楽の制作過程でもダビング作業は避けられず、マスターテープまでに最初の録音から5世代目ぐらいになっていたらしい。
ディジタルにすれば、ダビング時に2つのテープのサンプリング周波数を一致させる必要はあるが、数値のコピーとなるので解決できる。
それはカセットテープに替わる、新しいディジタル・オーディオ・ディスク(後のCDのこと)が必要になるということ。
DADのサンプリング周波数ですが、土井さんは家庭用機器までを含めると50kHzは高すぎるという考えでした。 また、PCMプロセッサでは家庭用VTRを利用することで、大量生産による安価化が見込めることもあり、44.1kHzでいくことを大方針とした。 ただそれだけでは、決定されてしまった50kHzを覆せるものではなかったので、近似値としての50.4kHzと44.1kHzの2本立て路線で提案を進めていくことに。
この2つの周波数は、8対7の整数比であるから例えば50.4kHzで録音し、44.1kHzで編集後のマスター録音するのに変換しやすく、劣化も極めて少ないという利点があったため。
1978年3月: PCM-1600発売
サンプリング周波数44.056kHz、量子化16ビット直線、2ch。専用のUマチックVTRとセットで使用する。
指揮者の巨匠カラヤン氏が、ソニー盛田さん宅でその音の美しさに感動したのは、PCM-1600の試作機だったもの。
録音スタジオでのマスタリングに用いることを前提とし、そのことでスタジオ録音のデジタル化の推進役となった。
1978年11月: 第2回AES国際会議が開催
ソニーはサンプリング周波数44.1kHzと50.4kHzの切り替え式(2本立て路線)で、ディジタル・マルチトラック・レコーダーの仕組みを発表。量子化は16ビット直線。 後にフォーマットは洗練され、DASH(Digital Audio Stationary Head)という名前がつけられ、業界内で定評のあるスイスのステューダー社に技術供与することになった。
ヨーロッパ勢は、ソニーが国際標準に従わないことを知ると、音楽の録音に不必要に高い周波数というのは資源の無駄使いという考えから、32kHzを再考し始めました。
もっとも音にうるさいだろう上級録音技術者を集め、視聴実験を繰り替えして行ったことで、その耳でさえ15kHz以上は聞き分けておらず、32kHzで十分なことを証明したようです。
ただ、AES(アメリカ)にその32kHzはまったく相手にされなかった模様。そのため、土井さん同様の手法で32kHzと2対3の関係にある48kHzを主張し始めました。
その結果、当初の世界標準である50kHzに従ったのはアメリカ勢だけで、日本、アメリカ、ヨーロッパの三つ巴状態に。
1979年9月: ソニーがフィリップスとCDの共同開発をスタート
前年の11.5cm小型光ディスクの成果から、フィリップスがソニーに共同開発を提案してきたことでCDの共同開発がスタート。
仕様を詰める中で、当初の主張の違いには以下のようなものがあった。
項目 | フィリップス | ソニー |
---|---|---|
サイズ | 11.5cm | 12cm |
記録時間 | 60分 | 74分(74分42秒) |
標本化ビット数 | 14ビット | 16ビット |
サンプリング周波数 | ? | 44.1kHz |
サイズと記録時間に関しては、以下結果からソニー側の提案が認められた。
- カラヤン氏の「ベートーヴェンの第九(約66分)が1枚に収まったほうがいい」という意見
- 日、米、欧の上着のポケットのサイズ「14cmを下回るポケットはない、12cmで問題なし」という調査結果
- 95%のクラシック音楽が75分内に収まるという調査結果
標本化ビット数は、ソニーが16ビットコンバータを開発したことで16ビットに。
サンプリング周波数は、フィリップスに意見があったか不明だが、土井さんがここまで進めてきた音楽制作におけるすべてのディジタル化の土壌ができつつあったので、44.1kHzを認めさせたと考えられる。
1980年: ソニーが業務用PCMプロセッサ「PCM-1610」発売
サンプリング周波数は44.056kHz と44.1kHzに対応。量子化は16ビット直線。 CD発売当初から同マスタリング作業は、このPCM-1610と1985年に発売するPCM-1630が事実上の標準となり世界中のCD制作現場で使用された。
1980年5月、6月: ソニーがCDとDASHを相次いで発表
CDとDASHを発表したことで、ステューダーとフィリップスが日本の主張するサンプリング周波数を支持することが明らかになった。
ヨーロッパ勢は肝心なメーカーが日本側についたことを知り、活路を得意の放送局機器分野に求め、放送局用ディジタルVTRの音声周波数として48kHzを提案。
政治的にも日本勢に席巻される可能性を説き、EBU(ヨーロッパ放送局連合)、SMPTE(アメリカ本拠の映画とテレビジョン技術の学会)に、次々と48kHzを認めさせた。
1981年10月: 世界規格が44.1kHzと48kHzに
最終的に、サンプリング周波数の世界規格は48kHzと44.1kHzの2周波数を基本とし、それにヨーロッパの強い要望により32kHzも付け加えられた感じとなった。
まとめ
ところどころ、日付に月の情報がないので順番が違うところもありそうですが。。
当初から家庭用を意識した製品づくりを根底に持ったいたソニー(土井さん)が、1977年ころに家庭用VTRを利用して音楽のディジタル化をし始め、 音楽制作からOutputとしてのCDまでを全てディジタル化するという戦略をとれた結果、 NTSC規格のビデオ信号の制約だった44.1kHzが、カセットテープよりも高音質なものでもあったので、CDの仕様にまで登りつめた感じかと思います。
そして、そんな前に作られた仕様(44.1kHz、16bit)でも、こだわりのオーディオ環境(うちのPCオーディオとか)であれば、ハイレゾ同様にすばらしい音質で聞けるのだからすごいよね。 倍音とかあるにしても、実際44.1kHzで十分ということなんだろな。ソニー様様ですわ。
この歴史からすると、音楽の本格的なディジタル化は1980年頃のPCM-1610から始まりだしたということ。
ということは、CD用やハイレゾ用へのリマスタリングをするにも、この時期以降にディジタル化を行っていないと、そもそも出来ないんだろうなぁ。
あっ!それもディジタル化だけではダメで、88kHz以上、24bit以上なものでマスタリングされていないとハイレゾできないのか。。
ビートルズとか~1970なので、これまでデジタルリマスター版が出てはいるけど少し心配だな。
参考文献・参考サイト
- 天外伺朗『ディジタル・オーディオの謎を解く』講談社(1987年)
- 柴田高『CD開発をめぐるソニーとフィリップスのパートナリング 』
- Sony Japan | Sony History
- PCMプロセッサー - Wikipedia
ここまで。

ディジタル・オーディオの謎を解く―CD・DATの科学と開発 (ブルーバックス)
- 作者: 天外伺朗
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1987/03
- メディア: 新書
- クリック: 5回
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